ブランドへの「共感」もたらす4要素(2)<タイヤ業界、ビール業界、トヨタ・テスラ、それぞれの違いを最新データからひも解く>
2022年7月に日経リサーチ独自のブランド力測定フレームワークである「ブランド戦略サーベイ2021」のコンシューマー編のデータを使って、企業が生活者の共感を生みだす4つの要素とその強さについてコラムを書いた。その後、同サーベイの2022版がリリースされたことから、今回は最新のデータを使って、同一業界内での企業比較をしてみたい。
「経験価値」データからわかる共感をもたらす4つの要素とは
利用したデータは、前回同様、体験価値を見える化する「経験価値(注)」である。対象企業への共感との一致度を因子分析し、共感をもたらす4つの要素を抽出した(表1)。すなわち(1)幸福感、(2)先進性、(3)高品質、(4)顧客対応である。
表1 共感をもたらす4つの要素(ブランド戦略サーベイ2022)
要素 |
内容 |
(1)幸福感 |
「楽しい気持ちになれる」「家族や友人・知人と会話がはずむ」「気持ちが豊かになる」など、コンシューマーに「幸せ」という価値を提供している企業群 |
(2)先進性 |
「時代の先端性やトレンドが感じられる」「自分の視野や知識を広げてくれる」「豊かな創造力を感じる」など、先進性が共感を生んでいる企業群 |
(3)高品質 |
「安全で間違いのない品質を得られる」「商品サービスのよさを実感できる」「健康への配慮が感じられる」「環境への配慮か感じられる」など品質の高さ、機能価値が共感を生んでいる企業群 |
(4)顧客対応 |
「社員・店員の熱意が感じられる」「顧客として大切にしてもらえる」などのエモーショナルでパーソナルなつながりや設備等のしかけがコンシューマーへの共感を生んでいる企業群 |
事例①「先進性」「高品質」がもたらすブリヂストンの共感
まずは、業界内で企業ごとにかなり違った共感の構造を示したタイヤ業界から見ていくこととする(図1)。顕著なのは、『先進性』と『高品質』においてブリヂストンが圧倒的に高い共感を生んでいることだ。
図1 タイヤ業界の共感の構造
実際の回答でも「安全で間違いのない品質」や「商品サービスのよさの実感」「使いやすさ」などクオリティの評価で他社を大きく引き離している。「環境に配慮」という評価でも他社を上回っており、昨今リトレッドタイヤ(摩耗した表面部分のゴムだけを取り換える再利用タイヤ)の事業を伸ばすなどの対応が評価されているようだ。
同時に、「企業のポリシーやメッセージが感じられる」「時代の先端性やトレンドを感じられる」など『先進性』の評価も高くなっており、この2分野からブリヂストンへの共感が強く生まれている。
一方、『幸福感』では日本ミシュランタイヤが他社を上回る。「楽しい気持ち」「贅沢な気持ち」などエモーショナルな部分での評価が高い。また『顧客対応』では日本ミシュランタイヤと日本グッドイヤーに軍配が上がる。この2社は「顧客を大切にする」が、他社よりわずかに高く、共感の醸成に寄与しているようである。
事例② 各社の「らしさ」が弾けるビール業界。サントリーは『高品質』が共感に効く構造に
ビール業界では、接戦ではあるものの各社の特徴が表れている(図2)。
図2 ビール業界の共感の構造
まず、サントリーの『高品質』は群を抜く。実際の回答でも「商品・サービスのよさが実感できる」が他社より5ポイント以上も高い。さらに「環境に配慮」「健康に配慮」なども高評価を得ている。積極的なESGのコミュニケーション対応などが共感に働きかけている構造が伺える。
一方、キリンビールは『幸福感』が共感を生んでいるようだ。キリングループのコーポレートスローガンである「よろこびがつなぐ世界へ」の浸透がこの結果からも確認できる。「楽しい気持ち」「贅沢な気持ち」などエモーショナルな評価が他社より高い。
『先進性』『顧客対応』についてはアサヒビールがリードした。「豊かな想像力」「顧客として大切にしてもらえる」などで他社を上回り、共感を生んでいる印象を受ける。
事例③『先進性』と『高品質』による共感醸成ではトヨタ、『顧客対応』ではテスラに軍配
次はトヨタ自動車とテスラの共感の構造を比較してみる(図3)。
図3 トヨタvsテスラの共感の構造

これは日本の一般的な生活者の評価から計算されたものではあるが、『高品質』が生活者の共感を生む構造になっている点ではトヨタが非常に高い。これはトヨタユーザーの体験価値としての品質が評価に影響を与えたものと考えられる。また『先進性』もリードしており、クオリティの高さとともに、トヨタの強みになっている。
一方で、気になるのがテスラがトヨタを上回る『顧客対応』である。それでは両社それぞれ共感があると回答した人の評価を見て、この原因を明らかにしていこう(図4)。
図4 共感者の経験価値評価(トヨタ自動車vsテスラ)
今回のサーベイ結果の共感度の回答はテスラが17.9%。トヨタ自動車(46.8%)と比べると3分の1程度しかない。ただし、それぞれの共感者がどのような評価をつけているかが、この分析結果の分かれ目となってくる。
『顧客対応』は表1で示した「社員・店員の熱意が感じられる」「顧客として大切にしてくれる」に加えて、「贅沢な気分が味わえる」の影響も強い項目である。テスラは「贅沢な気分が味わえる」の回答がトヨタより5ポイント以上も高いため、『顧客対応』の評価が高い要因となった。
本来、「顧客として大切にしてもらえる」という経験はユーザーが認識する価値である。今回分析している共感者のうちユーザーの割合はトヨタ(61%)がテスラ(17%)を大きく上回るが、「顧客として大切にしてもらえる」という回答は同程度のスコアとなった。テスラのユーザーはまだ少ないものの、ブランド評価として顧客の体験価値が伝わるとトヨタと同程度の共感を生むという構図になっている。
また、「他社との違いを実感できる」という差異化要素は10ポイント近くテスラの方が高い。さらに「時代の先端性やトレンドが感じられる」「日常生活にはない刺激が得られる」「購入・利用したことが話題となる」「家族や友人・知人と会話がはずむ」などでトヨタを上回る。テスラを媒介としたコミュニケーションも共感を生む要素となっている。
調査回答の結果ではまだトヨタの後塵を拝しているテスラだが、その中でもテスラらしさが共感を生んでいる構造が見られる。
このように共感の生まれ方は企業によって様々である。ブランドというのはあくまでも生活者やステークホルダーの心の中にあるものだ。それをどのように形づくるかが「競争優位」をもたらす。各社の腕の見せ所といえよう。
注)経験価値とは生活者がその企業の製品・サービスを利用した場合に得られる体験価値を評価したもの。企業活動をイメージというマインドの中の評価だけでなく、「顧客(潜在顧客を含む)」への体験を提供価値として測定している。ブランド戦略サーベイでは2008年から測定をつづけている。構成項目は以下の表にある「刺激」、「ハピネス」、「差別性」、「メッセージ」、「コミュニケーション」、「クオリティ」、「ケア」の計19項目。
【経験価値19項目】
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