「家計調査」と「検索データ」から見える消費行動の裏側
マーケティング戦略を立案する際、「消費者が実際にどのような行動をとったか」という結果の把握は不可欠です。その代表的なマクロデータが総務省の「家計調査」ですが、統計数値だけでは「なぜその行動に至ったか」という生活者の動機や心理までを捉えることは容易ではありません。
今回は、「マクロ統計」に人々の興味・関心をリアルタイムに映し出す「Googleトレンド」等の検索データを掛け合わせる分析手法をご紹介します。
日本の家計簿とも言える「家計調査」を題材に、2つのデータを重ね合わせることで消費者の息遣いやブームのメカニズムがどのように見えてくるのかを検証します。
生活者の実態を映し出す鏡、総務省「家計調査」の重要性
市場の動向をマクロ視点で把握するための基礎データとして、総務省が毎月発表している「家計調査」があります。これは日本国内の世帯が「何に、いくらお金を使ったか」を記録した家計簿を統計的に集計したものです。
食品や日用品の購入量から、電気代、サービスへの支出に至るまで多角的な項目が網羅されており、生活者の財布の紐がどのように変化しているかを生々しく映し出す鏡と言えます。このデータを時系列で分析することで、景気の動向だけでなく、「国民が今、何に価値を見出しているか」という構造的な変化を客観的に捉えることが可能となります。
実際に家計調査の長期時系列データを紐解くと、生活様式の変化が如実に表れていることが分かります。
例えば、2000年と2025年のデータを比較すると、生鮮肉の購入量が全体で2割以上増加しているのに対し、生鮮魚介の購入量は約6割減少しています。牛肉単体でも5割近く減少しており、いわゆる「魚離れ」の進行や、家庭内における主菜のシフトといった食生活の欧米化・簡便化がデータによって裏付けられています。
[表1:品目別購入量および増減率の比較]

*出所:総務省家計調査(二人以上の世帯)の月次累積データを使用
データで見る、コロナ禍の「巣ごもり消費」
家計調査では、特定の社会的要因による急激な変動も観測できます。2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大期(コロナ禍)における消費行動はその典型例です。
外出自粛や在宅勤務の普及に伴い、「小麦粉」(前年比+22.0%)や「麺類」(同+14.9%)といった内食・巣ごもり消費向けの品目が大幅に増加しました。その一方で、「女性用スーツ・ワンピース」(同-23.6%)や「ガソリン」(同-15.0%)、「旅行用かばん」(同-55.0%)といった外出を前提とした品目は激減しました。社会情勢の激変がダイレクトに家計の支出構造へ投影される点が、マクロ統計の大きな特徴です。
[表2:2020年における主な品目の前年比増減率(コロナ禍の影響)]
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*出所:総務省家計調査(二人以上の世帯)の月次累積データを使用
Googleトレンドで解き明かす生活者心理
家計調査は消費の「結果」を正確に示してくれますが、その変化を引き起こした「動機(なぜ買ったのか?)」を説明するには、別のデータソースを掛け合わせる必要があります。ここで有効なのが、世界中の検索行動から興味・関心の推移を可視化する「Googleトレンド」です。
ここでは身近な例として様々な酒類の売れ行きを例に見ていきます。
ウイスキー市場におけるメディア効果
家計調査において、2015年のウイスキー購入量は前年比で約15%という高い伸びを記録しました。この背景を探るためにGoogleトレンドで「ウイスキー」および関連する企業名の検索人気度を重ね合わせると、2014年後半から2015年にかけて検索数が急増している山が見られます。
これは当時、日本のウイスキー創業者をモデルにしたテレビドラマが大ヒットした時期と一致しています。メディアを通じて高まった生活者の「興味・関心(検索データ)」が先行し、それが店頭での「購買行動(マクロ統計)」につながったことがデータからもわかります。

酒類における「季節の欲求」と「慣習的購買」の違い
ビールやワイン、日本酒といった他の酒類のデータについても、購入量と検索人気度を重ね合わせることで生活者特有の文脈が見えてきます。
ビール…季節連動と慣習
夏場は「検索人気度」と「購入量」が連動して大きく上昇します。これは気候要因による能動的な欲求や新商品への関心の高さを示しています。一方、12月にも夏と同等の購入量のピークが発生しますが、検索数はそれほど伸びません。これはお歳暮や忘年会、正月準備といった「定番の慣習(とりあえずビールを箱買いする等)」として購入されていると推察されます。

ワイン…イベント依存型消費
ワインは11月のボジョレー・ヌーボー解禁から12月のクリスマスにかけて、検索人気度が急激に上昇します。しかし、年が明けた瞬間に検索も購入も急激に減少する傾向があります。ビールのような通年・季節の習慣とは異なり、特定のイベントに消費が強く依存している特性が読み取れます。

日本酒…冬の歳時記との連動
日本酒は冬場に検索が増加しますが、これはお正月や「熱燗」といった日本の伝統的な冬のライフスタイル・歳時記と密接に連動しながら、安定した購買行動につながっていると考えられます。

まとめ:統計データと検索データの掛け合わせが生むインサイト
事実を示す「マクロ統計」というレンズに、人々の感情や関心の波を捉える「検索データ」というレンズを重ね合わせることで、単なる数字の羅列だった統計データから生活者の息遣いを感じられる立体的なストーリーを描き出すことができます。
ビジネスにおいて消費者の行動変化を予測あるいは検証する際には、一つのデータに依存するのではなく、「行動の結果」と「関心の兆候」を掛け合わせて多角的に分析することが、より深いインサイトの獲得へとつながることを示す一つの例といえるでしょう。
めまぐるしく変化する経済環境の中、競合他社や協業先の動きを素早く把握することが、精度の高いマーケティングや営業戦略を行う上でのカギとなります。
日経リサーチでは、ビジネスの羅針盤となる企業情報データベースをはじめ、データベースに関する様々な知見を有しています。各種データのタイムリーな収集・活用に関して課題を感じている方はぜひお問い合わせください。
この記事を書いた人
- デジタルキュレーション本部 DC第2部
- 安食 貴博
法人情報調査等の企業を経て、現在はマクロ経済統計部門のチーム長およびサービス開発を兼務。データ収集業務の仕組み化・高度化を牽引し、チーム全体のオペレーション負荷を大幅に軽減させる改善実績を持つ。現在は「独自の価値創出」をテーマに、新規サービスの企画・モック開発に注力。趣味は弓道、特技はフランス語。
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