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より有効に活用される内部通報制度にするために企業が抱える課題と、その改善方法とは。

内部通報制度のための相談窓口を設置しても、利用されない、そもそも制度が理解されているのか不安など、課題は尽きない。内部通報制度をうまく運用するポイントを紹介する。

内部通報制度とは

2000年代、企業による不祥事が企業内からの通報によって次々と明らかになったことを背景に、「公益通報者保護法」が定められた。そして企業には、当時、義務化はされていなかったが「内部通報制度」を設けることが課せられた。それはコーポレート・ガバナンスコードが求めるものとなり、ESG投資やSDGsにも寄与するとされた。
 
内部通報制度は、社内からの声に適切に対応することで、リスクの早期把握と自浄作用の向上を図り、企業のコンプライアンス経営が推進されることを目的としている。ステークホルダーからの信頼を獲得していくため、そして健全な組織風土を醸成するためにも必要な制度である。

公益通報者保護法の改正

2022年6月に公益通報者保護法が改正され、301人以上の企業に内部通報窓口の設置と担当者の指定が義務付けられ、300人以下の事業所も努力義務が設けられた。また担当者には守秘義務があり、違反した場合には罰金が課せられる場合がある。
 
改正では、企業は不正を正しやすく、通報者はより通報しやすく、かつ保護されやすくなることが重視されている。法の改正により、実効性の強度は増したといえる。しかし視点を変えると、企業にとっては内部の問題が社外により露見しやすくなり、そして通報者として保護される人の範囲は広がり、さらなる対応をしなければ予期せぬリスクを背負いかねないのが現状だ。

相談窓口の設置が義務化

企業においては部署での問題について部下から上司へ報告・相談がされ、問題が正されることが理想だが、それができない場合が少なからずある。内部通報制度における相談窓口は、それに備えて設置することが求められている。

通報には、企業内の問題をその企業に申告する「内部通報」と、行政やマスコミなど外部に申告する「内部告発」がある。相談窓口を設置することは、社内の問題を早期に把握・対応して、通報者に内部告発という手段を取らせず、社内で解決するための仕組みともいえる。

窓口があれば安心なのか

内部通報に対応する体制を整え、相談窓口の運用がはじまっても、通報がないから安心とは言い切れない。窓口が利用しやすい仕組みなのか、そもそも通報制度が社内に周知されているのか、定かでないからだ。

窓口を設けるうえで大切なのは、運用体制が利用者から信頼されるものであるということ。通報に関する調査や問題の是正に関わる担当者の中立かつ公正な態度が求められ、また、通報者が不利益をこうむらない措置も必要となる。
反対に、愚痴のような相談が多数寄せられても、担当者の負担は増すばかりである。窓口を正しく利用してもらうには、社内研修の実施など制度への理解を深める必要がある。

こうした相談窓口のようなサブラインだけでなく、本来はメインラインである上司など職制への報告や、1.5線と呼ばれる現場のコンプライアンスリーダー、さらに内部監査など、リスクを抽出する方法はさまざまある。内部通報窓口に限らず、リスクの最前線にいる従業員がその問題を早めに指摘することが大切だ。

コンプライアンス意識の把握が必要

内部通報制度が機能し、相談窓口が正しく運用されるには、制度をきっちり確立、運用することと同時に、従業員に制度を理解してもらうことが第一歩である。それは会社に対する信頼度を向上させることにほかならない。
「匿名性に不安がある」「不利益な扱いを受ける心配がある」「相談しても解決に結びつくとは思えない」などと思われてしまうと、せっかくの制度が有効に機能しない。さらに「利用すると報復を受ける」ことを危惧されてしまうと、制度があることがマイナスに働いてしまい、まさに絵に描いた餅のようになってしまう。
また、本当に重要な問題が隠ぺいされてしまうと対応が後手後手に回り、結果的に多大なコストを支払うことになる。

それを防ぐためにも、日頃から相談窓口に対する理解を含む、社内のコンプライアンスに対する意識を把握しておく必要がある。そして窓口に寄せられる以前の声を把握し、本音を引き出すには、アンケートによる意識調査が有効である。
従業員が感じる違和感を早期に把握することが、初動対応の時間的なロスを押さえ、リスクを最小限に抑えることにつながる。
企業が「愚痴以上、通報未満」の言葉をひろおうとする姿勢は、働く者にとっては「いざとなれば会社が聞いてくれるだろう」「対応してくれるだろう」という安心と信頼につながる。健全な組織風土の醸成には、コンプライアンス意識の醸成が欠かせないのだ。

まとめ

公益通報者保護法の改正は、企業の不正・不祥事を早期に発見し、是正しやすくすることを目的としているが、企業の問題が外部に告発されるリスクが高まったともいえる。相談窓口の設置など、形だけの体制を整えても十分とはいえない。
内部通報制度がうまく機能しないと、社内の問題が解決されぬまま悪化したり、当事者が家族や知人に打ち明けて問題が社外に露見したり、誰にも相談できずに辞めていってしまうこともあるだろう。
 
正規・非正規問わず誰もが使いやすい内部通報制度を実行し、企業にもの言える環境を整え、リスクの早期発見と早期対応をしなければならない。そのためにも社内のコンプライアンス意識を把握しておくことが大事である。

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