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選定療養制度改正の影響は?【コラム3】|後発医薬品不足で「安定供給の危機」―曖昧な制度、現場にひずみ

日経リサーチは2024年10月に開始した長期収載品の選定療養制度の影響について、薬剤師、患者を対象にアンケート調査した。〈コラム1〉では後発医薬品利用促進の効果が出ているものの、薬剤師の業務負担が増えている。また患者の無関心は継続している現状をまとめた。
〈コラム3〉では薬剤師調査の結果をもとに「実際にどのような医薬品で後発医薬品への移行が進み、進んでいないのか」など、具体的な制度の効果と課題に迫りたい。なお使用した調査結果は〈コラム1〉に引き続き、業務への影響が強い院外薬局に勤務する700名の薬剤師の回答となっている。

「ヒルドイド(ヒルドイドローションなど)」「モーラス(モーラステープなど)」で後発医薬品利用進む

 

実際に長期収載品から後発医薬品へ移行したケースの有無について聞いた。「あった」との回答が86.7%にのぼり(グラフ1)、置き換わった剤型は「経口剤」をあげた薬剤師が92.8%と最も多く、「外用剤(ローション・軟膏・クリーム)」(52.2%)「外用剤(テープ剤、パップ剤)」(43.8%)が続いた(グラフ2)。市場での剤型別数量構成比を考慮すれば、相応の結果だろうか。

 

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具体的な医薬品名を聞いたところ、外用剤の「ヒルドイド(ヒルドイドローションなど)」「モーラス(モーラステープなど)」のどちらかをあげる薬剤師が非常に多い。経口剤では高血圧治療などに使われる「ノルバスク」「アムロジン」をあげる薬剤師がそれなりにいた。これは先発医薬品の特許切れのタイミングが影響したのだろう。

「皮膚のかぶれ」や使用感などで先発品を選定する事例も

 

 

逆に「医療上の必要性」を理由に長期収載品が指定されるケースについて聞いてみた。「あった」と回答した薬剤師は全体の40.4%。「なかった」との回答が5割(グラフ3)。「あった」と回答した薬剤師に、制度開始以降に応需した処方箋全体の何%程度かを聞いたところ「10%未満」が84.1%で、平均すると4.6%だった(グラフ4)。

 

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「医療上の必要性」を指摘された医薬品を剤型別に聞くと「経口剤」が61.8%で、ローションやクリーム、テープ剤、パップ剤などの「外用剤」が続いた(グラフ5)。この傾向は後発医薬品への移行が進んだ医薬品と同じだ。

 

 

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具体的な医薬品名についても同じく「ヒルドイド(ヒルドイドローションなど)」「モーラス(モーラステープなど)」をあげる薬剤師が多かった。効能は後発医薬品と長期収載品の差異がないにしても、患者の皮膚に直接使う医薬品のために「かぶれる」などの問題や「はがれやすい」といった使用感の差を感じやすい。そのため医師の判断が分かれていることが、前述の後発医薬品になった医薬品でも上位になったことや、後述の自由記述から推察できる。

 

 

在庫管理の負担増大「最悪のタイミング」「患者とトラブル」

 

最後に実際の院外薬局に勤務する薬剤師の生の声を紹介する。まず制度に対する賛否とは関係なく、ほとんどの薬剤師は後発医薬品の供給不足という状況に大きなリスクを感じながら業務をしている。長期収載品から切り替えた後発医薬品が調達できず、別のメーカーの後発医薬品に切り替えれば、そのたびに患者に納得してもらわなければならない。ここ数年、後発医薬品不足が深刻な状態だった中での「最悪のタイミング」との声が目立った。
さらには制度の仕組みの「曖昧さ」が生み出す混乱に悲鳴を上げている。例えば生活保護を受けている患者に先発品を処方した際の患者負担はどうあるべきか。支払い能力がなく医師や福祉事務所との協議・調整が必要になったとの話もある。先発医薬品と後発医薬品の包装単位(グラム数など)が異なり、必要量を測って別途包装し直すケースもあるという。さらに「医療上の必要性」を認めれば長期収載品を保険適用で使用できるが、医師によって必要性の「判断」が異なり、患者とのトラブルに発展することもある。制度の説明や差額の計算など煩雑な業務が増えたうえに、曖昧さの判断まで現場が対応している。
医療費増大に大ナタを振るわなければ医療保険制度の持続可能性を損なうのは事実だが、国が机上の空論だけで制度改正を繰り返しているように、現場は感じている。より良い制度にするためにも効果と課題を継続的に調査・検証し改善していくしかない。
 

   〈薬剤師の選定療養に対する意見〉

「なんとなく先発」が減った。差額を伝えると後発への変更が増えた

(30代、賛成)
医療費削減に一役かっていると思うが、後発品の出荷調整が増えたのは問題。毎月4000錠使っていた薬が全く入ってこなくなった (40代、賛成)
医療費の観点からはとても賛成だが、定着するまでには先発医薬品の処方減による不良在庫、廃棄のリスクが高まり、後発の入手がしにくくなる (40代、概ね賛成)
長期収載品と後発品で薬価が異なるが保険点数上は同じになる薬もある。次回薬価改定で統一するなど薬局側の在庫負担も考えて欲しい (30代、概ね賛成)
後発医薬品の利用促進には繋がっているが、医薬品流通を悪化させている。後発品に変更した後に、再び後発品メーカーを変更しなければならず、改めて説明が必要になる (30代、概ね賛成)

従来長期収載の先発品を好んで服薬していた患者か、身体的にそれでなければ合わない患者かが分かる事で、後発品の推進につながった

(30代、概ね賛成)

差額の出し方がわかりにくい

(40代、概ね賛成)

差額全額患者負担でもいい。そのくらいの額なら先発のままで、という方が一定数いる

(30代、概ね賛成)
「医療上の必要性」があれば保険適応で長期収載の先発品を使用できるが、「必要性」の内容が不透明 (30代、概ね賛成)

実行するタイミングが最悪。 まずは安定供給が第一

(30代、概ね反対)

生物学的同等性があるとはいえ、製剤としての同等性がないものがある。 ヒルドイドとヘパリンはローションの場合、ジェネリックは化粧水と呼ばれるほどさらさらしている

(30代、概ね反対)

事務処理が煩雑で余計な仕事が増えた

(40代、概ね反対)

先発も薬価が下がっていてほとんど差額がないケースもある。 その場合に後発の在庫を抱えて勧めるメリットが無い。 外用薬は使用感の違いで先発希望者がいるが、選定療養を説明したらトラブルになった

(40代、反対)
薬局の在庫管理が煩雑になった。 不良在庫を抱える可能性が増えた。クリニックによって「医療上の必要性」の判断が異なることもあり、患者さんによっては不満の種となる (40代、反対)

 

なお、今回コラムでは紹介できなかった調査結果などに興味のある方は、日経リサーチまで問い合わせ頂きたい。

 

※関連リンク

【コラム1】「後発医薬品の利用促進」一定の効果だが薬剤師の負担増
【コラム2】「後発医薬品の利用促進」患者の認知進まず

 

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