医療情報システム導入調査〈後編〉
2025.6.3
前回コラムでは医療情報システムの導入状況についての調査結果を紹介した。
今回は医療現場に立つ医師が「期待する技術」について紹介していきたい。
2023年3月に実施した前回調査では「AIによる画像診断」との意見が圧倒的に多かったが、今回は少し違った結果が出た。医師7,023人が回答した記述内容をChatGPTを使って要約してみると、8分類され、最も多かったのは「事務作業の文書作成と自動化」で、「画像診断」が続いた。
■「事務作業と文書作成の自動化」のニーズ高く
文書作成の自動化と言えば生成AIが得意とする分野だが、ChatGPTがリリースされたのは2022年11月30日。前回調査は23年3月なので、利用の立ち上がり段階だったといえる。そこからの2年間で、生成AIは社会に広く浸透し、多くの企業・団体が業務の効率化のために積極的に活用している。こうした変化を受けて「主治医意見書、保険会社に出す診断書、診療情報提供書、退院時サマリーなど文書をカルテから自動作成する技術」(50歳代内科医)といった事務作業の分野でAIを使い、効率化を進めたいと感じるようになったと言えるだろう。
実際に医師が情報収集の際に生成AIを利用しているかを聞いたところ、「必ず利用」「利用することが多い」「たまに利用」の回答総数は4割を超えた。年代別にみると、20代から40代までは5割を超えている。60代以上になると「利用したことがない」との回答が68%に達している。勤務先別でみると大学病院に勤務する医師の7割近くが利用している。こうした状況をみると、画像診断支援といった診療に直接かかわるAI活用は早くから利用が進んでいるが、今後は診療以外の情報収集や事務作業での生成AIの活用も進みそうだ。
■「生成AIに治療情報」は「賛成」が「反対」を大きく上回る
生成AIを診療に使うことに対する医師の声も聞いた。まず生成AIに「治療情報」を読み込ませることへの賛否を聞くと、「賛成」「どちらかと言えば賛成」との回答は約44%で、「反対」「どちらからと言えば反対」との回答は18%だった。年代別にみると20代と30代は半数以上が「賛成」としている。60代以上の医師の「賛成」の回答は30%だったが、「反対」を4ポイント上回った。治療情報を生成AIに蓄積し、ビッグデータ化することで医療の質向上につながるとの期待を、年代に関わらず持っているといえそうだ。
治療情報よりも慎重な姿勢が目立ったのが「個人情報」を生成AIに読み込ませることの是非。「賛成」「どちらかといえば賛成」の回答は23%だったのに対し、「反対」「どちらかといえば反対」の回答は38%だった。年代別に見れば、60代以上は47%が反対で、20代でも28%が反対と回答している。勤務先別にみるとAIの利用が進む大学病院でも、反対の回答が賛成を上回っている。
自由記述で賛否の声を聞いてみると、反対理由のほとんどは「情報の漏洩」「情報の悪用」「問題が生じた際の責任の所在が不明」といった内容だった。シニア層からは生成AIそのものを信頼できないとする声もあった。AI開発が米中主導のため、海外製システムを活用することへの不安を訴える医師もいた。そうしたリスクを認めたうえで、治療の選択肢が増えることや、医療ミスの削減につながると期待する声も多かった。
今回の調査全体を通して、医師のAIに対する期待は確実に高まっていると感じた。しかし医療界は個人情報の保護の観点が最も強く、デジタルシフトに慎重な分野の一つだ。今後、AIによる医療の質向上を進めるには、AI機器やサービスを提供する業界がもっと医療界に寄り添い、医師たちの期待を高めていくことが重要だ。日経リサーチは今後も関連業界と連携しながら、現場のニーズをきめ細かく調査していく。
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