インターナルブランディングの進め方
従業員がブランドを体現する「自分ゴト化」と「可視化」のロードマップ
多くの企業で経営理念やパーパスの浸透が進められていますが、「全社一律の施策を打っても現場との温度差が埋まらない」とお悩みの担当者様も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、日経リサーチの最新の調査データを基に、理念浸透のボトルネックを紐解くアプローチを2回に分けてお送りします。
第1回となる今回は、従業員がブランドを体現するための「自分ゴト化」のプロセスと、組織の現在地を「可視化」することの重要性について解説します。
1. インナーブランディングの重要性
昨今「人的資本経営」の潮流において、企業の価値を形作る「無形資産」である「ブランド価値」が重要視されています。 一般的に「ブランディング」と聞くと、広告宣伝などの「社外向け(アウターブランド)」の活動を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、顧客が抱くブランドイメージの多くは、実は接点となる従業員一人ひとりの振る舞いや、日々の対応からも形成されています。
近年社会問題化している「静かな退職(クワイエット・クィッティング)」のように従業員が会社への帰属意識や熱量を失った状態では、どれだけ社外へ発信をしても顧客の信頼を得ることはできません。
つまり、真に強固なブランド価値を最大化させるためには、社外への発信と連動する形で、従業員にブランドの考え方や経営の意思を浸透させる取り組み、すなわち「インナーブランディング」が不可欠なのです。
2. インナーとアウターの連動
理想的なのは、この図のように「インナー」と「アウター」がしっかりと連動して機能している状態です。

図1:ブランディングにおけるインナーとアウターの連動
まず、図の左側にあるインナー、つまり組織の内側において従業員が会社の意思を理解して自分ゴトとしてとらえ体現していく。その結果、図の右側にある顧客や社会、つまりアウターに対して、一貫したブランド体験を提供できるようになります。そしてその積み重ねが、顧客満足度の向上や、社会的信頼の獲得に繋がっていきます。
このような好循環のサイクルを回していくことが、企業のブランド価値最大化には重要です。
本コラムでは、組織の内側である「インナー」に焦点を当ててお話していきます。
3. ブランド体現への道筋と「自分ゴト化」の役割
従業員が組織の目指すブランドを自発的に体現し、外部へ一貫した価値を提供できるよう行動作変容を起こすまでには、大きく分けて以下の3つのステップが存在します。
Step 1:認知・理解
Step 2:共感・納得
Step 3:行動・実践
経営理念やパーパスを全社に周知(Step 1)したとしても、すぐに従業員が日々の業務でそれを体現(Step 3)できるわけではありません。頭での「理解」から実際の「行動」へ移る間には、大きな隔たりが存在します。
このステップを繋ぐために最も欠かせないプロセスが、ブランドの「自分ゴト化」です。
従業員一人ひとりがブランドの考え方に納得し、「自分の日々の仕事には、どのような意味があるのか」を実感できて初めて、ブランドの最大の理解者であり実践者へと成長します。インナーブランディングの本質は、この「自分ゴト化」のプロセスと言えます。
4. データで見る「理念浸透」の実態
では、日本企業の多くは今、この3つのステップのどの位置にいるのでしょうか。
弊社が2026年11月にビジネスパーソン2,560人を対象に実施した自主企画調査の結果から、理念浸透の実態をご紹介します。

図2:理念浸透の実態(N=2560)
「理念を理解している」と回答した割合に対し、「理念に共感している」の割合は18.0ポイント低下し、さらに「理念を意識して行動している」の割合はそこから8.8ポイント低下するという結果が出ています。
まさに、「頭ではわかっているけれど自分ゴトにできておらず、行動に移せていない」という従業員が少なくないことがわかります。
しかし、もしこの「共感(自分ゴト化)」の壁を突破することができれば、組織にもたらされる大きなメリットがあります。同調査において、理念・パーパスへの「共感」がある従業員とない従業員を比較したところ、以下のようなデータ差が確認されました。

図3:経営理念・パーパスへの共感の有無がもたらす効果
(理念に共感している:1845人/共感していない:107人)
データが示す通り、理念への共感は、ブランドへの愛着や誇りといった「ブランドエンゲージメント」の源泉になるだけでなく、働きがいや離職防止といった「経営効果」へも直結しているのです。
5. ファーストステップは「組織の現在地の可視化」
ここまで見てきたように、従業員の「共感」を誘い、ブランドを自分ゴト化してもらうことは重要です。しかし、目に見えない組織の意識や熱量を、闇雲に動かそうとしてもうまくいきません。
自分ゴト化を推し進めるためのファーストステップとして極めて重要なのが、まずは自分たちの組織の現在地を客観的に知る「ブランド力の可視化」です。
企業の健康診断のように、目に見えない組織の状態をデータに落とし込み、共通の物差しを持つ。そうすることで初めて、以下のような具体的な課題が明らかになります。

図4:調査によって明らかになること
WHAT(実態はどうか?)
全社的にどのステップで浸透が滞っているのか
WHO(どこで詰まっているか?)
会社別、役職別、年代別、あるいは「部署別」で見たときに、どこにボトルネックがあるのか
WHY/HOW(なぜ詰まっているか?なにが有効か?)
イントラネットや社内報、ブランドストーリーといった各種インナーコミュニケーション施策は、本当に効果を発揮しているのか
現在地を定量的なデータとして客観的に把握してこそ、次に「どこに、どのような施策を打つべきか」を正しく判断できるようになります。
まずは現状をデータで冷静に見極め、組織のボトルネックを特定すること。これこそが、経営の意思を従業員の自発的な行動へと態度変容させるためのスタート地点となります。
次回予告
それでは、可視化されたデータを基に分析を進めたとき、組織の「どこ」に歪みが生まれやすいのでしょうか。
次回は、今回ご紹介した調査データをさらに深掘りし、「社外接点のある部署・ない部署」の間にある意識のギャップと、それぞれの部門の性格に応じた具体的なアプローチ(インターナルブランディング施策の打ち分け方)について解説します。
この記事を書いた人
- インターナルブランディングリサーチャー
- 戸澤 ほのか
入社以来、金融機関やBtoB企業などの調査案件に多数従事。現在は国内外の従業員向け調査を担当。新たなインターナルブランド調査の設計開発にも携わり、最近はコンプライアンスを含む組織レジリエンスの研究にも注力。
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