ウェルビーイングの現在地と課題
企業経営のメインテーマとして「ウェルビーイング経営」が提唱され、従業員のウェルビーイング向上を目的とした活動が、各企業で展開されています。
ウェルビーイングの可視化という観点では、2023年に日本経済新聞社を事務局とする「Well-being Initiative」経営委員会にて質問内容を精査した「日経統合ウェルビーイング調査(伊藤版Well-beingスコア)」が完成。
その後、2024年7月に日経リサーチにて「日経統合ウェルビーイング調査(伊藤版Well-beingスコア)」としてのサービス提供を開始し、各企業へ従業員の声をもとに自社の立ち位置や課題を明確にするご支援をしています。
本コラムでは前編、後編の二部構成にて、国内上場企業の正社員モニター1万人を対象に実施した最新の調査結果の紹介と、結果からわかるウェルビーイングを高めるために必要なことについて解説をいたします。
1. 総合的ウェルビーイング・認知は上昇
ウェルビーイングという言葉の認知度を聞いた結果、69.8%が聞いたことがあると回答。
24年度の61.4%から8.4pt 上昇した。確実にウェルビーイングという概念が浸透してきていることが分かります。

働く人のウェルビーイング実感を示す「総合的ウェルビーイング」の平均スコアは5.33と24年度の5.11から上昇しました。こちらも緩やかだが上昇傾向にあります。

また、ウェルビーイングの認知と実感の関係性を見ると、ウェルビーイングに関して「聞いたことがあり、意味も知っている」人の方が、そうでない人より総合的ウェルビーイングが明らかに高いという結果が出ました。伊藤座長が指摘する「ウェルビーイング・コンシャス・プレミアム」です。ウェルビーイングを実感することは、まずウェルビーイングを認知することから始まるようです。
2. 健康経営の成果は見られるも、組織風土改革やキャリア自律は道半ば
総合的ウェルビーイングやウェルビーイング認知が上昇していることは先述の通りですが、より掘り下げた視点ではどうでしょうか。
5つのカテゴリー別ウェルビーイングを見ると、健康安全がトップスコアです。ここ近年の健康経営が一定の成果を生み出していると言えるでしょう。
一方で、組織風土と経済自立は3点未満と改善の余地が残るほか、キャリア自律や社会関係についても3点台をわずかに超えるにとどまります。ここからは5つのカテゴリーについてブレイクダウンし、それぞれの改善ポイントを探っていきます。

3. 革新に向けた動きやすさのほか、経営と現場の対話も課題
まずは組織風土の個別項目を見ていきます。10項目のうち、最も低い項目は「あなたは所属組織内で、革新に向けた動きがしやすい。」であり、次点で「経営者・社員間の対話は適切(頻度・質)に行われている。」が続きます。
前者においては業務過多や、現状維持に甘んじる職場風土など原因は多岐にわたる可能性があります。ただ変化が激しい現代においては現場での動きやすさが重要です。経営層は現場との対話を通して何がネックかを把握、改善する必要があるでしょう。

4. さらなるリスキリングと働き方の自由度が求められる
キャリア自律の個別項目では「会社には副業・兼業の自由がある。」のスコアの低さが目立ちます。企業間相互副業や雇用型の解禁等も見られますが、一部の企業にとどまっている現状です。ただ厚生労働省の検討会では労働時間管理の見直しも議論されており、今後副業・兼業が活発になる可能性もあります。
加えて「自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態である。」も2点台となっており、キャリア選択の自由度について労働者は十分であると認識していないことがうかがえます。
「会社ではリスキルや学び直しが推奨されている。」については、人材版伊藤レポートでも重要項目として位置付けられていますが、企業によって取り組みレベルに差があるのか、全体としては低調な結果となりました。

5. 従業員の精神的健康に引き続き配慮を
5つのカテゴリーの中で3点以上のスコアの項目が最も多かったのが健康安全です。
一方で「あなたは仕事に過度なストレスを感じていない。」のみが2点台にとどまっています。ほかにもメンタルヘルス対策など、精神的健康に関する項目は身体的健康に比べてスコアが低い傾向にあります。健康経営に関する取り組みはここ数年で急速に広まりましたが、精神的健康へのアプローチは引き続き注力する必要があります。

6. 組織間の壁を壊し、一体感の醸成が求められる
社会関係の個別項目では、「会社内の各部門の間には問題となるような「壁」はない。」が際立って低く、全個別項目中2番目に低い水準です。
また「組織や職場には一体感がある。」は3点未満であり、24年度から悪化傾向にあります。弊社で実施しているグローバル調査でも似たような項目を聴取していますが、海外に比べて日本のスコアは低い結果が出ています。
このことから組織のサイロ化は日本特有の根深い課題と言えそうです。

7. 賃上げ以外の打ち手を
経済自立の個別項目では「あなたは会社からの収入に不安がない。」が2点台にとどまりました。これだけ見ると昨今の物価高に給与が追いついていないのではと考えてしまいます。もちろんそういった側面も人によってはあるでしょうが、一方で将来に対して漠然とした不安を抱えているケースもあるのではないでしょうか。
「会社は社員に対して金融リテラシーを獲得する機会を提供している。」は全項目中3番目に低いスコアです。会社の施策を通して個人の金融リテラシーを向上させることで、従業員の経済的不安を解消することにつながると考えられます。

ここまで、最新の調査データをもとに、日本で働く人々のウェルビーイングの「現在地」を見てきました。
総合的なウェルビーイング実感や認知は緩やかに上昇しているものの、組織風土改革やキャリア自律支援など、企業が向き合うべき課題はまだ多く残っています。
では、こうした多岐にわたる課題を前に、企業はどのように優先順位をつけ、従業員のウェルビーイングを高めていけばよいのでしょうか。続く後編では、ウェルビーイングが高い人・低い人の特徴を紐解きながら、ウェルビーイング向上に向けたアプローチを解説します。ぜひ後編もあわせてご覧ください。
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