ニュースの見方が変わる!調査データから見る企業の動向 ~賃金・ボーナス調査編~
3月から4月にかけて、「採用」や「賃上げ」といった、企業の動向がわかる調査が次々に発表されました。この調査から何が分かるのか、調査データの見方を解説します。
前編 では、企業の「未来への投資」である採用調査について解説しました。続く後編では、私たちの生活に直結する「お金」の調査について見ていきましょう。
賃金・ボーナス調査とは?
賃金動向調査やボーナス調査は、今年の賃上げ状況や一時金の支給水準について答えるアンケートです。現在、日本経済新聞では年に3回、調査結果を掲載しています(調査実施を当社が担当しています)。
● 春(4~5月頃)に「賃金動向調査」…春季労使交渉(春闘)の結果を受け、賃上げ率の集計を掲載
● 夏(7月)に「夏ボーナス調査」…一時金(ボーナス)の集計を掲載
● 冬(12月)に「冬ボーナス調査」…一時金(ボーナス)の集計を掲載
類似の調査として、経団連と連合がそれぞれ実施している調査がありますが、経団連が大企業中心、連合は組合のある企業(中堅企業も含む)が対象です。
日経の調査は上場企業が中心ですが、回答は超大手企業ばかりではなく、組合のない企業の状況なども含んでおり、経団連の調査と連合の調査のちょうど中間あたりに位置します。これらの結果は中小企業の賃上げやボーナス水準の参考などに用いられる場合もあり、社会的に非常に影響力の大きい数字です。
調査データの見方 ― 「定昇」と「ベースアップ」の違いを知る
賃上げのニュースでよく聞く「定期昇給(定昇)」と「ベースアップ(ベア)」。この違いを正しく理解することが、データを読み解く第一歩です。
定昇とベアの違いを、イメージしやすいように、エスカレーターに例えてみます。
- 定期昇給(定昇)
エスカレーターに乗って、徐々に上に上がっていくイメージです。年齢や勤続年数に応じて個人の給料が上がる仕組みで、一個人としてみれば給料は年々少しずつ上がりますが、会社の支払う賃金の総額が大きく変わることはありません。- ベースアップ(ベア)
エスカレーターが設置されている「床そのもの」が底上げされるイメージです。全社員の給与水準が一律に引き上げられるため、会社の人件費負担も直接増えます。
公表されている「賃上げ率」は、上述の「定昇」と「ベア」の合計です。近年、年功序列は徐々に薄れてきていますが、とはいえ日本企業の多くは今でも定期昇給を実施しているため、どんなに景気が悪くても、基本的に賃上げ率がマイナスになることはありません。
一方でボーナスに関しては、基本給を簡単に上げ下げできない代わりに、業績に応じて従業員への配分を増減させるという色彩が濃いため、業績が良い年と悪い年で支給額に大きな差があるのが特徴です。
≪賃金動向調査 掲載例≫

*2025年賃金交渉の賃上げ回答・妥結状況
*出所:「日本経済新聞」2025年5月16日付朝刊より筆者作成
▼ 賃金動向調査 各項目の説明(クリックで開きます)
| ①社数 | 集計対象となった社数。 賃金動向調査やボーナス調査の場合、2年分の金額に回答があるだけでなく、組合員数などの回答もないと集計できないため(加重平均を算出するため)、調査の回答社数よりかなり少なくなる |
| ②25年賃上げ額 | 各社の回答した賃上げ額(一人の社員からみた、年齢による昇給も含む昇給額)を加重平均した値。 加重平均なので、組合員数の多い大企業の影響を受けやすいのが特徴 |
| ③25年賃上げ率 | 基準内賃金に対する賃上げ額の割合。各社の②÷④を加重平均した値になる |
| ④基準内賃金 | 25年の賃上げを行う直前の、基準内賃金(基本給+一般的にもらえる手当)の加重平均 |
| ⑤⑥24年の賃上げ額・率 | ①~④と同じ企業群の、前年の賃上げ額・率。 |
≪ボーナス調査 掲載例≫

*2025年夏ボーナス回答・妥結状況
*出所:「日本経済新聞」2025年7月15日付朝刊より筆者作成
▼ ボーナス調査 各項目の説明(クリックで開きます)
| ⑦社数 | 集計対象となった社数。 賃金動向調査やボーナス調査の場合、2年分の金額に回答があるだけでなく、組合員数などの回答もないと集計できないため(加重平均を算出するため)、調査の回答社数よりかなり少なくなる |
| ⑧税込み支給額 | 各社の回答した一人あたりボーナス支給額を加重平均した値。 |
| ⑨24夏比増減率 | ⑧の金額÷昨年の⑧の金額で計算した伸び率。 |
| ⑩24夏の前年比 | 昨年の⑧の金額÷一昨年の⑧の金額で計算した伸び率。⑨と比較するために使用する |
時系列で見る、賃金・ボーナス20年の変遷
では、実際に時系列データを見てみましょう。まずはボーナス調査からです。
●過去の成果か、足元の景気か

*(出所)日本経済新聞「夏ボーナス調査」「冬ボーナス調査」より筆者作成
ボーナスは、業績に応じて柔軟に増減する性質があるため、前年比はかなり波があり、0%を下回る年も少なくありません。
夏ボーナスと冬ボーナスの前年比伸び率は、基本的にほぼ重なっていることがわかりますが、例外もあります。特に目立つのが2014年で、緑色の線(夏ボーナス)は前年比で9%を超える高い伸びを見せているのに対し、オレンジ色の線(冬ボーナス)は5%程度と、伸び率に大きな差があります。
実は2014年は4月から消費税増税(5%→8%)があったのですが、にもかかわらず消費税増税後の2014年の6~7月頃に支給される夏ボーナスの時点では非常に高いボーナス水準でした。これは、ボーナスが決まる「タイミング」と「仕組み」に理由があります。
労働組合がある企業では、春の交渉(春闘)でその年の賃上げと一緒にボーナスについても話し合われるケースがよくあります。企業ごとにスタイルは異なり、主に以下のようなパターンがあります。
①春の時点で、賃上げに加えて夏・冬両方のボーナス水準をまとめて交渉
②春の時点で、賃上げに加えて夏のボーナス水準を決め、冬についてはその後の業績を勘案して改めて交渉
③春は賃上げのみ交渉し、ボーナスについては夏・冬の分を夏にまとめて交渉
④賃上げ、夏ボーナス、冬ボーナスをそれぞれ別々に交渉
表にすると以下のようになり、赤字の部分が実際の支給よりかなり前に支給水準が決まる部分です。
≪賃上げ・ボーナス交渉:代表的なパターン≫
| 春 | 夏 | 冬 | |
| ① | 賃上げ+夏ボーナス+冬ボーナス | ||
| ② | 賃上げ+夏ボーナス | 冬ボーナス | |
| ③ | 賃上げ | 夏ボーナス+冬ボーナス | |
| ④ | 賃上げ | 夏ボーナス | 冬ボーナス |
2014年の夏ボーナスが記録的な伸びとなったのは、前年度(2013年度)の「アベノミクス」による円安・株高で企業業績が極めて好調だったためです。
春にまとめてボーナス支給額を交渉する企業は、この「過去の絶好調な成果」を分配する形で高い支給額が決まりました。しかし、その後消費税増税があり、増税後の消費冷え込みをリアルタイムで察知した企業は、冬ボーナスの決定において慎重な姿勢に転じました。
業績がボーナス支給額に反映されるタイミングは企業により異なるため、消費税増税やコロナ禍のような大きな出来事はその後何回かに分けて段階的に影響が表れることとなります。
●20年間の静寂を破る「歴史的賃上げ」

*(出所)日本経済新聞「賃金動向調査」より筆者作成
最後に、賃上げ率にも目を向けてみましょう。
2002年から2022年頃までは、景気が回復してボーナスが増えても、賃上げ率は2%前後でほぼ横ばいでした。最も賃上げ率が低かった時代の賃上げ率が1%台後半で、これがほぼ定期昇給のみの水準と考えられますので、ベースアップがあったとしても1%にも満たない水準で長らく推移したということになります。
しかし2023年頃から賃上げ率が大きく上昇し、2024年から2025年にかけて5%を超える高さまで突き抜けています。これまでの「ボーナス(一時金)で調整する」という手法だけでは追いつかないほど深刻な人手不足と物価高が企業の背中を押し、ついに多数の企業が基本給の底上げという歴史的な決断に踏み切ったと言えるでしょう。
まとめ:数字の「クセ」を知れば、未来が見えてくる
前後編にわたり、採用と賃金の調査データの見方を解説してきました。
● 採用調査: 企業が描く「未来への投資」の意欲
● 賃金・ボーナス調査: 企業が稼いだ「現在の成果」の配分
これらの数字は、私たちの生活や働き方に直結する「社会の体温計」です。次にニュースで「〇%増」という数字を目にしたときは、それが「未来への期待」なのか「過去の成果」なのか、はたまた「必死の人材確保」なのか―。グラフの波を思い出しながら、その裏側にある企業の想いを想像してみてください。
めまぐるしく変化する経済環境の中、競合他社や協業先の動きを素早く把握することが、精度の高いマーケティングや営業戦略を行う上でのカギとなります。
日経リサーチでは、ビジネスの羅針盤となる企業情報データベースに関する様々な知見を有しています。企業情報のタイムリーな収集・活用に関して課題を感じている方はぜひお問い合わせください。
この記事を書いた人
- デジタルキュレーション本部 DC第3部 部長
- 堀江 晶子
日本経済新聞社の媒体に掲載される財務情報を担う部門を統括する。スマートワーク経営調査などの企業評価調査の他、採用計画調査、賃金動向・ボーナス調査など人事・労務系調査や、アナリストランキング、銀行ランキングなど金融系調査をこれまでに担当。
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