「顧客の声」が熱量を変えるインターナルブランディングの進め方
データが明かす理念浸透の壁:部門の「社外接点の有無」から考えるインターナルブランディング推進法
「全社に向けて経営理念を発信しているのに、一部の部署にはどうも響いていない」――インターナルブランディングを推進する中で、このような壁にぶつかっていませんか?
第1回のコラムでは、従業員がブランドを体現するプロセスにおいて、組織の現在地を可視化すること、そして何より「共感」が不可欠であることをお伝えしました。
しかし、従業員が「会社」と向き合う過程は、日々の業務や所属部門の性格によって大きく異なります。全社一律の施策を展開するだけでは、理念の浸透を阻む要因を取り除くことは難しいのが実情です。
そこで本稿(第2回)では、部門の性格を「社外接点の有無」という視点で切り分けます。日経リサーチの調査データをもとに、一律の施策が本当に有効なのかを検証し、「社外接点のない社員」の熱量を引き出すための具体的なヒントをご紹介します。
1. 社外接点の有無が生む意識のギャップ
インターナルブランディングは社員が一体となって推進することが不可欠ですが、顧客と直接対峙する社員とそうでない社員の間には意識の違いが見られます。
図1の調査結果によると、顧客や社外関係者と接点がある社員に対し、接点がない社員は最初の「理解」の段階からすでにスコアが低く、その後の「共感」や最終的な「行動(体現)」に至るまで一貫して低い水準にとどまっています。
図1:社外接点別の3ステップの違い.png?width=602&height=393&name=%E5%9B%B31%20%E7%90%86%E8%A7%A3%E3%83%BB%E5%85%B1%E6%84%9F%E3%83%BB%E8%A1%8C%E5%8B%95(%E7%A4%BE%E5%A4%96%E6%8E%A5%E7%82%B9%E5%88%A5).png)
図2のデータを見ると、社外接点を持たない社員は、特に経理や総務などの管理部門や、製造・生産部門に多いことが分かります。前線でブランド価値を発信する社員を後方から支えるこれらの部門において、意識が低い状態にとどまっていることは、組織的な課題と言えます。
さらに、本社から離れた現場や地方拠点、あるいは海外拠点になればなるほど意識が低下するという「遠心力」のような現象もみられ、これはグローバル展開する多くの企業において共通の悩みとなっています。
図2:部署別社外接点有無の状況(社外接点なしの降順)

2. 「共感」が行動を引き出す鍵
それでは「社外接点のない社員」において、共感の有無が行動にどのような影響を与えるのでしょうか(図3)。
注目すべきは、社外接点がない社員であっても、企業理念やパーパスに「共感」していれば、7割以上が実際の行動に結びつけているという事実です。 逆に、社外接点がある社員であっても、「共感」が伴わなければ「行動」のスコアは3割程度と大幅に低下してしまいます。
これは、社外向けの活動を担う社員による外部へのブランド発信力が弱いことを意味し、結果としてエクスターナルブランディングの低下を招くリスクがあると考えられます。従業員の熱量を引き出し、ブランド力を高めるためには、何よりも「共感」の醸成が欠かせません。
図3:接点別の共感の有無による経営理念・パーパスを業務上意識した行動の状態
3. 部門の性格に応じた「共感」向上施策
しかし、全部門に一律の施策を行うだけで、共感を高めることは困難です。
図4を見ると、製造・生産部門など社外接点がない部門は共感が弱い傾向にあります。一方、カスタマーサポート部門は社外接点があるものの共感度が低く、クレーム対応など日々の定型業務による心理的負荷が影響している可能性があります。
図4:部門別の社外接点なしの方の割合と経営理念・パーパスへの共感の状況.png?width=3355&height=2192&name=%E5%9B%B34%20%E9%83%A8%E7%BD%B2%E5%88%A53%E8%A6%81%E7%B4%A0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0(XY%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%88).png)
共感度を上げるために有効な施策も、部門の性格によって異なります。 図5は、従業員が「役に立った」と回答した施策ごとに、実際にどの程度共感が醸成されたかを検証したものです。
顧客接点がある社員の場合は、熱量を伝える宝庫である「経営層との座談会」や「1on1ミーティング」など、対面での対話が有効に働いています。一方、顧客接点がない社員においては、「クレドカード」など個人に直接意識変化を促すツールが効果を発揮しているほか、第3位に「顧客の声」がランクインしている点が非常に示唆に富んでいます。
クレームだけでなく、顧客からの感謝や称賛といった「社外の声」をいかに社内へ還流できるかが鍵となります。「自分たちの業務が顧客の役に立っている」というファクトを伝えることで、理念の「自分ゴト化」が促進されます。社内の熱量を高めるには、社外の熱量を内部へ取り込むことが効果的なのです。
図5:社外接点別の共感度を上げる施策ランキング%3C%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%88%E5%BE%8C%3E%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0.png?width=981&height=375&name=%E5%9B%B35%20%E5%85%B1%E6%84%9F%E5%BA%A6(%E5%BD%B9%E7%AB%8B%E3%81%A1%E3%83%84%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%88%A5)%3C%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%88%E5%BE%8C%3E%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0.png)
4. データに基づくインターナルブランディングの推進
総合的なエンゲージメントを高めるためには、労働条件などへの納得感といった「機能的なエンゲージメント」だけでなく、会社への愛着や誇りといった「情緒的なエンゲージメント」を掛け合わせることが不可欠です。経営理念への共感が、働きがいや就職推奨意向に大きく影響していることからも明らかです(図6)。
図6:経営理念・パーパスへの共感の有無による働きがい・就職推奨意向の状況

どれほど優れた施策であっても、部署の性格を無視して展開しては十分な効果は期待できません。まずは自社の現状を定量的に測定し、「どの部署の誰がどのレベルにあるのか」「ボトルネックはどこか」「どの施策が響くのか」をデータに基づいて見極める必要があります。
データを羅針盤とすることこそが、経営の意思を社員の自発的な行動へと態度変容させる、最も確実な近道と考えられます。
この記事を書いた人
- シニアフェロー
- 大橋 知弘
企業のリスクマネジメントの一環として、社員意識を測定するコンプライアンス経営診断プログラムを開発。エンゲージメントやインターナルブランディングなど社員の意識変革、ブランド力の測定・市場浸透など、企業の意思決定に関わる数多くのプロジェクトに従事。現在は国内外の人組織・ブランドなどマネジメントリサーチ事業の営業を推進する。
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