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マルチステークホルダー時代に必要なインナーブランディング戦略の重要性

企業価値を向上させる重要な戦略のひとつに、従業員に向けた「インナーブランディング(インターナルブランディング)」がある。このインナーブランディングの手法が、企業に関わるあらゆるステークホルダーを全方位で重視する時代(マルチステークホルダー時代)の到来とともに、改めて注目を集めている。本記事では、マルチステークホルダーという時代的背景を俯瞰し、そのうえでインナーブランディングが注目を集める理由と、実践にあたって必要な手法やポイントを紹介する。

マルチステークホルダー時代とは?

マルチステークホルダー時代とは、従来の「株主資本主義」と呼ばれる株主の利益を重視する時代が移り変わり、企業に関わるあらゆるステークホルダーを全方位で重視する、まさに今の時代を指し示す言葉だ。時代が移るきっかけに、2015年以降のSDGsやサスティナブルの流れがある。地球環境や未来も見据えた全方位への配慮が必要とされるなかで、企業の存在意義を示すことが求められ、急速にマルチステークホルダーの考え方が重要視されるようになった。


さらに2019年、米経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」による会社のパーパスに関する声明で、「企業はあらゆるステークホルダーの利益に資するよう努めなければならない」という宣言が行われた。具体的には、①顧客への価値提供、②従業員への投資、③公正かつ倫理的なサプライヤー対応、④コミュニティーへの支援、⑤株主への長期価値の創造、以上をもって株主資本主義の見直しが宣言された。

 

利益を出していれば良いという時代が終わり、企業活動があらゆる人に評価される時代に移った。マルチステークホルダー時代とは、企業の社会課題への取り組みを「自社らしさ」として定義し、それを社内外のステークホルダーに理解してもらい、共感を得ていく時代と捉えることができる。

マルチステークホルダー時代のブランディング戦略とは?

マルチステークホルダー時代のブランディング戦略では、製品やサービスではなく、企業そのもののブランディングが必要だといわれている。顧客や取引先、消費者、株主、地域社会、従業員などのあらゆるステークホルダーに向けて「自社らしさ」を認知してもらい、共感をもってもらうことで事業を推進する「企業ブランディング」と呼ばれる取り組みである。

 

そのためには、企業側から一方的に情報を発信するのではなく、インタラクティブな対話が不可欠になってくる。施策の結果として期待できるのは、会社とステークホルダーとの間に「共感」が生まれ、他社と比べて自社は特別な価値を持つ存在だと識別されること。さらに「商品やサービスが選ばれる」「取引業者に信頼をされる」「採用希望者が増える」「投資を受けられる」など事業推進に寄与することである。

企業ブランディングの実行で重視されるインナーブランディング

企業ブランディングの推進は通常、自社の現状を調査・分析し「自社らしさ」を定義することから始まる。「自社らしさ」がまとまったら、外への発信(アウターブランディング)の前に従業員への浸透活動、いわゆる「インナーブランディング」を行う必要がある。従業員に「自社らしさ」が浸透すると、従業員自らが考え、業務に活かせるようになる。

 

結果として業務が「自社らしさ」の文脈で最適化され、あらゆるタッチポイント(顧客や取引先などとの接点)で表現されるようになる。インナーブランディングとは、対外的な広報戦略ではなく従業員に「自社らしさ」を浸透させ、一人ひとりが実行していくブランディング活動なのだ。

従業員が重要ステークホルダーになってきた理由

従業員がステークホルダーとして重要視される理由は、冒頭で述べたように企業が意識すべきステークホルダーが全方位になったことに起因する。顧客、取引先、採用希望者、地域住民などあらゆるステークホルダーとの接点は従業員が担い、そのつながりこそが企業活動の生命線なのだ。国外では言語や文化の違いなどがあるため、さらに重要となる。

 

企業が対外的にどれだけ「自社らしさ」を発信していても、ステークホルダーと従業員との実際のやりとりにおいて「自社らしさ」と距離があったり一貫性のない態度や行動が成されると、ブランドは浸透しない。

 

また昨今では、SNSが浸透して個人の影響力が高まっていることも、従業員が重要なステークホルダーであるという考え方を後押ししている。人的資本が重要視されているのも、この文脈上にある。インナーブランディングによって従業員の中に自社への誇りやブランドへの愛着を育み、そこに起因する自然な態度や行動によって「自社らしさ」が自律的に表現され、伝わるようになるのだ。

インナーブランディングの手法

インナーブランディングは、ブランドブックや社内報、ブログ、ムービー、ワークショップなどのオウンドメディアを使って従業員の理解を促すことや、ネーミングライツや新聞広告などのアーンドメディアを用いたアウター向けの発信、さらには人事制度の改革などを通じて従業員のブランドへの共感や愛着を育て、組織風土を変革していくやり方がある。どの方法を用いるにしても、施策の結果として「自社らしさ」が従業員に浸透しているかどうか、客観的な評価を組み込むことが重要だ。

 

「自社らしさ」を軸にした企業ブランディングの進め方についての記事はこちら

インナーブランディング戦略・実践のポイント

社内横断で推進する

インナーブランディングは「自社らしさ」をテーマとした社内浸透活動であり、営業部門のみならず、企画開発部門、人事部門、経営企画部門、役員にいたるまで、あらゆる部門に関係する。このため、社内横断で推進体制を定めることが必要である。

社内が納得できる「自社らしさ」を定義する

インナーブランディングは社内の納得のもと「自社らしさ」が定義されていなければならない。企業活動の原点である想い、ブランドならではの価値、さまざまなステークホルダーと約束できること、他ブランドとの違いを整理し、みなが納得、共感し、自分の行動に変換できるわかりやすい言葉でまとめておく必要がある。

インナーブランディング推進時の注意点

インナーブランディングを推進していく際は、施策の結果としてどの程度従業員にブランドが浸透したか調査する必要がある。ブランドは無形資産なので実質的な成果を把握しづらく、施策の調査が行われない場合も少なくない。しかし結果が把握できないと、ブランディングの成果を共有することも、改善策を実施することもできない。


日経リサーチが提供するインナーブランディングの調査では、従業員の「意識」と「行動」の二つの側面からアンケートを行い、明らかにしている。意識面では「パーパス、ビジョン、理念への共感度合い」「自社製品への誇り」「自社ブランドのイメージや魅力点」などを、行動面では「ブランドへのコミットレベル」「ブランド力を感じる具体的な接点」「ブランドが発揮されることで期待されること」を明らかにする。

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まとめ

ブランディング活動というと、CIの刷新やタレントを用いたCM、SNSの活用など外向けのブランディング施策を優先しがちだ。しかし、マルチステークホルダー時代では全方位に向けた「自社らしさ」への共感が必要になり、ステークホルダーとの接点でもっとも影響力を及ぼすのは従業員である。一見するとブランディング施策では遠回りに思えるインナーブランディングは、現在ではブランドへの共感を生み出す近道と考えられている。

 

日経リサーチでは、インナーブランディングの推進状況を把握する調査のほか、従業員へのブランドへの意識調査を行っている。企業ブランディングやインナーブランディングを推進する際に、活用してほしい。

 

自社らしさが社内にどの程度浸透しているかを見える化

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