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BtoB企業に必要な本当のブランド力 -失敗しない正しい調査設計- NIKKEI BtoBマーケティングアワード2022セミナーレポート

本日は「BtoB企業に必要な本当のブランド力 失敗しない正しい調査設計」と題し、BtoB企業がどのようにブランド力を把握すべきかという点を中心にお話ししたい。まずBtoB企業になぜブランド力が必要か、次にブランディング担当者への調査をもとにしたブランド力の把握の現状と課題、最後にブランド力をどのように測定すべきかについて話したい。

なぜBtoB企業にブランド力が必要なのか

ブランド力は一般には消費者向けのブランドで扱われる話題だが、BtoB企業にもブランド力があると主に3つのメリットがある。まず、新規顧客獲得が容易になる。有名企業であればリードアポイントの取りやすさという段階からポジティブな影響がある。次に、価格と品質以外の競争軸を作る。安いからではなく、信頼できるからなど別の競争軸を作ることで価格競争から抜け出せる。そして人材確保。いかにいい企業でも認知が低ければ人材集めは非常に難しいので、ブランド力はBtoB企業でも非常に重要である。

ブランディングのKPIとその測定

では、各社はどのようにブランド力を把握しているのか。企業・商品サービスのブランディング担当者に、勤務先のブランディングのKPIは何か聞いた質問の自由回答を分析したのが、下記図である。

 

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最も多かった言葉は「ない」だったが、次に多かったのが「認知度」で、「顧客満足度」も多かった。これらは個人の意識を調査するものだ。一方、「問い合わせ件数」「アクセス」「売上」などは実態を測定するもので、だいたいこの2つに大きく分けられる。

「意識を調査するもの」と「実態を測定するもの」という2つのKPIの取り方には、それぞれメリットとデメリットがある。個人の意識を調査してKPIとする場合、認知率など実際の行動では現れないような事柄も設定が可能だが、調査設計が適切でなければ間違ったKPIでブランディングが行われることになる。実態をKPIとする場合は実際に起きていることなので測定が容易だが、KPIを改善するための「なぜそうなっているのか」は実態の測定だけではわからないので、他の方法で調査していく必要がある。つまりKPIには2つの測り方があるが、改善まで見込むのなら、何らかの調査をする必要がある。そのような理由で、実際に自社でブランド調査をやっているブランディング担当や、マーケティング担当は多いのではないか。

ブランド力を調査で測定する際の課題とは

では、ブランド調査をやっていて次のような課題はないだろうか。例えば、「肌感覚や実感と調査結果が異なる」、「なんとなく思っていたのと違う結果が出た」、「信頼できる結果かどうかわからない」、「CMなんてやっていないのにCMで会社を知ったという人が5割いた」など。これはかなり極端な例だが、本当に正しい結果なのかと疑問に思うことがあるのではないか。実際、弊社にもこうした課題感を持ったお客様の声をよくお聞きする。

実際にどのような課題感を持っているのか、企業や製品の認知及びブランド調査の担当者に「調査で課題に思った点は何か」と聞いたところ、下記の図のような結果となった。

 

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最も多かったのが「調査結果を活用しきれなかった」で、「調査設計が正しくできているかわからない」、「信頼できる結果か分からない」といった回答が続いた。調査がうまくできないとか、活用できないといった課題をブランド調査の担当者が抱えているという結果が出た。

調査がうまくできない、活用できないということがなぜ起きるかというと、ほとんどの場合は調査設計が適切にできていないからだ。特にBtoB企業では調査設計が難しく、設計の失敗による悪影響が起きやすい。一見、結果を活用できないことと調査設計がうまくできていないことは関係ないのではと思うかもしれないが、例えば、何となく聞きたいことを入れたがどう分析しようか、といったことが起きているなら、調査設計が適切にできていない、質問が分断されていると言える。目的を明確化して、それに沿った適切な調査設計ができていれば、そもそも分析や活用で迷うことはない。

適切な調査設計のポイント

調査で起きる課題は調査設計に起因することが多いので、問題はどうすれば失敗しない調査設計ができるのかだ。適切な調査設計のためには「だれに」「何を」「どのように」という3つのポイントを抑えることが重要だ。大前提として調査目的に合わせた設計が必要なので、調査目的が明確化されていない場合は調査設計の前に、そもそもなぜ調査するのかを適切に、はっきりさせておかねばならない。それができた後に、目的に合わせて、適切な対象者に、必要最低限の調査票を、分かりやすく誤解を生まない聞き方で、調査することになる。

例えば、比較的よくあるブランド調査の目的で、「顕在・潜在顧客の自社と競合のブランドイメージの差を知りたい」、「その上で今後のブランディング活動の検討材料としたい」という場合、「だれに」はビジネスターゲットなどビジネスに関わりのある人、意味のある人だけに絞って聞く必要がある。ここができていないと、重要でない人の回答で重要な人の回答が薄まってしまい、結果の読み違いが起きる。「何を」は認知、ブランドイメージなど、目的に沿った項目のみ聞き、なんとなく知りたいものは聞かない。分析・活用まで考えられていない項目を聞いても質問が分断され、活用しやすい分析の邪魔になるだけだ。「どのように」は質問によってかなり細かくポイントがあるが、例えば、ブランドイメージの質問であれば、知っている企業についてだけに聞くなど、回答にブレが生じないことを意識した設計をする必要がある。このような形で実際に設計を行っていく。

 

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そして3項目の中で最も重要なのは、「だれに」調査するかである。対象者は調査目的に合わせた設定が必要だ。ブランド調査であればブランディングの成果の確認が目的となることがほとんどなので、当然、目的に合わせて調査対象者も決めていく。図にすると下記のようなイメージとなる。

 

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ブランディングの目的が、売上向上などビジネスに関することならビジネスターゲットへの調査が必要だ。ビジネスターゲットとは自社のビジネス上のターゲットとしている人たちのことだが、BtoB企業であればここにしっかり調査を行うことが非常に重要になる。

更に言えば、BtoBのビジネスは取引の関与者が多く、意思決定も非常に複雑なので、ビジネスターゲットの中でもキーパーソンとなるようなビジネスリーダーや検討関与者といった人たちに対するブランド力がBtoB企業にとって最も重要であり、だからこそBtoB企業のブランド調査では、その人たちに調査をする必要がある。

消費者向け企業ならビジネスターゲットの人数がそもそも多いので、広く一般消費者にブランディングを行い、その成果を確かめる調査をすることは意味があるが、BtoB企業ではビジネスにまさに関係する人たちがどう思っているかが重要なポイントになる。ここが適切にできていないので失敗してしまうBtoB企業のブランド調査が非常に多い。

BtoB企業で必要なブランド力とは

では「本当に必要なブランド力」とは何か。BtoB企業では、ビジネスターゲットと非ターゲットで認知やイメージが異なることが分かっている。BtoB企業にとって本当に必要なブランド力は、「ビジネスターゲットに対するブランド力」である。当然、ブランディングの目的によっては必ずしもそうでないこともあるが、ほとんどの場合、BtoB企業ではビジネスターゲット以外に対するブランド力は意味がないと言っていい。本当に重要なターゲット層に対するブランド力こそ強化すべきで、だからこそ、そこに調査すべきという結論になる。

 

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ターゲットと非ターゲットでブランド評価は変わるのか

ターゲットと非ターゲットで認知やイメージは本当に違うのか、と思われるかも知れないので、自主調査の結果をご紹介する。これ以降の分析では、各企業が提供するサービスカテゴリーの導入検討の決済者・関与者、つまりまさにビジネスに直接関わる人たちをビジネスターゲットと定義する。

まず、コンサルティング会社のアクセンチュアの場合、認知度はターゲットの方が高く、更に、当社でブランド調査の指標としてよく使う「共感」・「ビジネスパートナー度」・「独自性」という3項目もいずれもビジネスターゲットの評価が高いという結果が出た。

 

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イメージに関する質問では、ターゲットの回答から非ターゲットの回答を引いた数値としてターゲット層で強いイメージを見ると、ほとんどのイメージが強く出ており、特に「グローバル企業である」、「信頼できる」、「活気がある」などで強いイメージがあることが分かった。アクセンチュアは全体を通してターゲットの方の評価が高く、もし非ターゲットが混ざった状態で調査を行った場合、結果のミスリーディングが起きる恐れがある。

 

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もう1社、クボタを見てみる。産業機械メーカーだが、農業機械メーカーのイメージがある方もいるだろう。認知はターゲットと非ターゲットでほとんど変わらない。一方、「共感」・「ビジネスパートナー度」・「独自性」の3つは、いずれもターゲット層の評価が高い。

 

 

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次に、ターゲットに強いイメージと非ターゲットに強いイメージを見ると、非ターゲットは「環境に配慮している」とか「専門領域に強い」といったイメージが強いのに対し、ターゲットは「企画開発力がある」というイメージが強い 。クボタはターゲットと非ターゲットで認知度自体はほとんど変わらない、誰しもが知っている企業だが、イメージはターゲットと非ターゲットで全く違うことが、この結果から分かる。誰にどのような目的でブランディングをするのか、それによって、成果を測定するブランド調査では対象者を慎重に決める必要がある。

 

 

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このようにビジネスターゲットと非ターゲットでは回答傾向が異なるので、ブランディングのターゲットに調査ができていなければ、正確な結果は出ない。そうするとKPIの適切な測定と改善ができない。つまりだれに聞くのかによって結果が全く変わってしまうので、調査設計ではここを最も慎重に検討・決定する必要がある。それができていなければ、適切な調査ができないので、ブランディングもうまくいかない。だれに聞くかをうまく設計することが「失敗しない調査設計」のポイントになる。

サービスのご紹介

日経リサーチによるBtoB企業向けのブランディング評価では、日経新聞の購読者を中心とした日経ID会員を対象に調査を実施することで、役職者中心に多様なビジネスパーソンからの評価を得ることができる。ビジネスターゲットはもちろん、職場の中心となるようなリーダー層や検討関与者など、まさに重要な人たちに調査を実施することができ、一般には認知の低いBtoB企業でも、しっかりイメージを取ることができるのが強みである。

また600社のコーポレートブランド力を毎年調査する「ブランド戦略サーベイ」を始め、ブランド調査の豊富な実績と知見をもとに調査設計からサポートしている。「何を」「どのように」調査したらいいのか、という調査設計のお悩みもリサーチャーがヒアリングしながら提案させていただくので、ぜひ相談してほしい。

 

株式会社日経リサーチ 日経IDビジネス推進部リサーチャー 鈴木真生

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