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調査・統計用語集

数量化理論

林知己夫(1918年-2002年)が太平洋戦争後の日本で、独自に開発したデータ解析手法の総称で、一般的に多変量解析と呼ばれる一連の手法に含まれる。理論体系というよりも分析方法である、ということから数量化法あるいは単に数量化と呼ばれることもある。林知己夫自身も論文・著書等で数量化理論、数量化法、数量化など多様な呼び方をしている。初期には数量化理論と書いていたが、後年になるにつれて数量化ないし数量化の方法と呼ぶようになったようである。
 数量化法はいくつかの手法から構成されている。個別の手法の呼称について林知己夫は「外的基準があり数量で与えられている場合」のように呼んでいたが、飽戸弘が「数量化理論第○類」のように番号をつけて手法を区別して命名し、この呼名が定着した。ここでも「理論」とは呼ばずに、単に「数量化○類」と呼ぶこともあるほか、「林の数量化○類」のように林の名字を接頭辞として付加する場合もある。
 市場調査の分野では、1964年に『市場調査の計画と実際』という著書が刊行され、この中で数量化法を調査データに適用する事例が紹介された。まだコンピュータが容易に利用できない時代であったが、当時としては先駆的な分析手法として普及が始まった。
 
 数理的には同等の手法が別の名前で存在している。開発の背景・適用分野・問題意識・分析目的・導出方法などは異なるが、本質的に同じ結果を得る。つまり、多変量解析のソフトウエアがあれば、特別に数量化法のための専用プログラムを開発しなくても、数量化法を利用することができる。異なる時期に異なる国で、本質的に同じ分析法が開発されたのである。数理だけでなく林による数量化法の開発・分析過程に学ぶべき普遍性がある。
 数量化法と多変量解析法の対応関係は、以下のようになっている。それぞれの対応する手法の分析目的は、ほぼ同じである。
 
数量化1類・・・分散分析
数量化2類・・・判別分析
数量化3類・・・対応分析
数量化4類・・・多次元尺度法
この他、数量化5類、6類なども存在するが、あまり利用されていないと思われる。
 
 数理的に同等である、あるいは本質的に同じ結果を得るという意味は、たとえば数量化1類の分析結果として得られる数量と、分散分析の結果は基準化方法が異なるだけで、相関係数は正確に1であるという意味で、同値だということである。数量化2類の数量も同様であり、数量の平均と分散による基準化方法が異なるだけなので、判別変量との相関係数は正確に1である。
 「数量化」という点に本質的な意味があり、質的データを量的な測度に変換する(数量化する)という趣旨の手法である。調査結果で得る変数は、性別、職業、購読新聞、所有商品など質的変数であることが多い。このような変数のカテゴリ番号(選択肢)は名義尺度か、せいぜい順序尺度である。このカテゴリに対して分析目的を満たす基準からみて、適切な「数量」を与える方法が、数量化法である。
 数量化法の用語では、質的変数とそのカテゴリを、アイテムとカテゴリと呼ぶ習慣がある。分散分析の用語では因子(要因)と水準に相当する。
 数量化法のもうひとつのアイデアは、質的変数をダミー変数(二値変数)に変換するという操作を利用したことである。判別分析では独立変数には量的変数を前提としている。数量化2類は質的変数である独立変数をダミー変数に変換したうえで判別分析を適用する方法だとみなすことができる。その意味では、数量化1類も、独立変数をダミー変数に変換した重回帰分析だとみなすこともできる。
 二値変数は1と0の値だけをとる変数である。たとえば「業種」という1個の変数があり、製造業(A)とサービス業(B)と農林水産業(C)という3カテゴリで調査したとする。この「業種」という変数をA、B、Cという3個のダミー変数に変換することができる。ダミー変数は二値変数となる。Aのカテゴリは、製造業(1)と製造業でない(0)という値しかとらない。BとCも同様である。二値変数は数学的に特殊な性質があり、質的変数でもあり量的変数でもある。あるいは名義尺度でも、順序尺度でも、間隔尺度でもある。具体的な一例をあげると、質的変数の連関係数であるφ係数を算出すると、量的変数の連関係数である積率相関係数と一致する。
 数量化3類と対応分析に関しては、いずれも質的変数の分析手法として開発されたので、まったく同じ型のデータを分析対象としている。数量化4類と多次元尺度法は距離行列を分析対象とするが、距離の測度に多様性があり、それに応じて計算方法の違いが生じる。たとえば地点間の「普通の」ユークリッド距離も考えられるし、商品AよりBが好きだが、CはBよりも好き、というような好みの順序から非類似度の尺度を作ることもできる。これも選好に関する「距離」として扱うことができる。
 
<参考文献>

  • 林自身による著書:

林知己夫(1974). 数量化の方法. 東洋経済新報社.
林知己夫(1993). 数量化—理論と方法—. 朝倉書店.
林知己夫・村山孝喜(1964). 市場調査の計画と実際. 日刊工業新聞社.
 
 林自身による著書の他にも多くの文献が存在する。統計学・調査法に関連する学術雑誌での特集も多い。

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